この章では、ピアノとオートバイについて比較します。ピアノとオートバイという変わった組み合わせに皆さんは首を傾げるかもしれませんが、実はこのふたつには共通するところがあります。
以前、ある有名な大学教授が新聞のコラムで、若い頃の思い出話として次のようなことを書いていました。その先生が留学先で外国の友人から、日本ではピアノとオートバイを同じ会社で製造しているそうだがそんなことは信じられない、と言われたそうです。そこで議論になり、その先生は苦し紛れに両者には共通する点がある、それは両方とも音を出すことであると言ったそうです。
実は、私も音に関する講演をするときには、いつも冒頭にピアノとオートバイの比較の話をしてきたものですから、大変興味深くこのコラムを読みました。正確に言うとピアノとオートバイを同じ会社が製造していたのはある一時期だけで、現在は別々の会社に別れて製造しておりブランドが同じだけなのですが、共通することと言えばやはり音を出すことです。
ところが、ピアノは音を出すことが許されるのに対して、オートバイは音を小さくすることが求められ、この点は実に対照的です。私も以前はオートバイの音を如何にして小さくするかを研究しておりましたが、そのとき思ったことはピアノはなぜ音を出すことが許され、オートバイは音を消さなければならないのか、ということでした。
その答えを簡単に言ってしまえば、ピアノは音を出すことを目的として作られている製品であるのに対し、オートバイは走ることが目的の製品であることです。つまりオートバイにとって、音は走るための副産物に過ぎないのです。また、ピアノの音とオートバイの音は物理的にも特性が随分違うこともあります。
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